AD8620 + BUF634 ヘッドフォン・アンプの製作

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2008年の夏のことです。知人の誕生日のプレゼントとして、ヘッドフォン・アンプを制作しました。 当初からこのサイトでこのヘッドフォン・アンプの制作記を公開するつもりでしたが、時間がなくて、なかなか着手できませんでした。 最近になってようやく余裕ができたので、今更の感もあるのですが、情報を整理してみました。

Design and Build 設計と製作

次の方針に沿って設計・製作を進めることにしました。

以上の方針に基づき、次のような回路としました。

回路図

J1:電源(DC12V) J2:電源LED J3:ライン入力 J4:ヘッドフォン出力
内部の様子
外見(前面)
外見(背面)

ヘッドフォン・アンプの中核は、OPアンプAD8620と高速バッファBUF634の組み合わせです。 BUF634のデータ・シート 記載の“High Performance Headphone Driver”ほぼそのままの回路(ゲインのみ変更)となっています。 設計した当時、BUF634を使用したヘッドフォン・アンプの製作が流行していたことも、 この回路を採用した一因です。

前述の“High Performance Headphone Driver”では、 BUF634をWide BWモード(Bandwidth(BW)ピンをV-へ接続)としています。 しかし本機では、BWとV-の間に220Ω(R9,R14)を入れました。 これはWide BWモードだと、試作時に発振してしまったからです。 R9とR14を追加し、オーディオ帯域外のゲインを下げることで、発振を止めました。 発振したのは、おそらくブレッドボードでの試作で、回り込みが起きやすかったためでしょう。 それでもオーディオ帯域外のゲインをむやみに上げるのは害が大きいと判断して、 プリント基板化した際にもR9とR14を残しています。

入力側のカップリング・コンデンサC10とC11には、ポリプロピレン・フィルム・コンデンサを使用しています。 ポリプロピレン・フィルム・コンデンサ、特に大容量のものは、地元のパーツ・ショップにはあまり在庫がありません。 でも、digikeyならば選び放題で、しかも安価です。 ポリプロピレン・フィルム・コンデンサは、聴覚上は優れていると感じるのですが、 他種類のフィルム・コンデンサと比べてサイズが大きくなってしまうのが欠点です。 内部写真で、基板の手前側に実装されている2つの灰色の長方体がカップリング・コンデンサです。 写真のように、かなり実装面積を取ってしまっています。

AD8620はオフセットが極小(100μV Max)であることから、出力側はカップリング・コンデンサなしとしました。 後述のミュート・リレーを通ってヘッドフォンに出力されます。

電源ラインのデカップリング・コンデンサには、OS-CONを使っています。 これは、OS-CONの藤色の外装フィルムが好きだから・・・プレゼントでは見た目も大切ですしね。 音質への影響は、正直いって、よくわかりません。 その他の受動部品は一般的なものです。

電源については、外付けのACアダプタから供給されるDC 12Vから、 オンボード型のDC-DCコンバータ(コーセルSUCW31212)で±12Vを生成しています。 DC-DCコンバータのノイズ対策として、出力側にLCフィルタを挿入しました。 入力側のダイオードD1は、電源の逆接続保護用です。

安心して使っていただけるように、電源投入時に発生するポップ・ノイズについても対策を行いました。 ヘッドフォンへの出力に、電源投入後2秒間のミュート・リレーを挿入しました。 リレーは、12VのリセットIC(TL7712A)で制御されます。 リセットICの電圧検知(SENSE)ピンに入っているR2とC8は、ノイズ対策です。 ブレッドボードで試作したときに、動作が不安定となったことがあったため、追加しました。 R2とC8でLPFを構成します。 プリント基板実装であればLPFは不要かもしれませんが、念のためそのままにしてあります。

コネクタは、JSTのXHシリーズです。 コネクタの圧着には、メーカー純正の専用工具は高価なので、汎用工具を使用しています。 このアンプを製作した当時は、エンジニアの精密圧着ペンチ PA-09を使っていました。 でもこれはXHコネクタを圧着するにはダイスが薄すぎるようで、何度も失敗しました。 現在は、同じくエンジニアのPA-21 を使用しています。 こちらのほうがダイスが厚くて、作業しやすくなりました。

ケースはタカチのHEN型ケースです。 パネルのデザインについては、 SN's WEBのSN様が、 Headphone Amplifier SN-HPA0502 ページにて、同じHEN型ケースを使った パネル図面 を公開していらっしゃいました。 すっきりしたデザインが好印象でしたので、前面パネルについては、そのまま流用させていただきました。 (背面パネルについては、基板のレイアウトの関係で手を加えています。) ツマミやスイッチもSN様の作例を真似させていただくことにして、似たデザインのものを探しました。 SN様、どうもありがとうございました。 パネルのレタリングは、Mac OS Xで作成したテキストを テプラPRO(SR3700P) を使って透明テープに印刷し、貼り付けました。 Mac OS Xのフォントが使えることから、テプラっぽさ(?)がなくなり、 それなりにすっきり仕上がったのではないかと思います。

なお、音量調整用のボリュームは、アルミ・アングルで作成したサブ・パネルに取り付け、 ナットと回り留めの爪がパネル表面に出ないようにしています。

評価 Evaluation

知人に贈る前に、手元のヘッドフォン(SENNHEISER HD650)をつないで試聴してみました。 解像度が高く、高域が澄んでいて、低域にはスピード感があります。 個人的には、かなり好みの音の傾向です。

本機を知人に贈ってから、まもなく5年が経ちます。 知人はヘッドフォンとしてAKG K601を愛用しているそうです。 どうやら気に入っていただけたようで、毎日聴いているとのことです。 この間、故障することもなく動作しているようで、ほっとしています。

ところで、2008年にパーツを2台分まとめて購入したのに、未だに自分用のものは組み立てていません。 いいかげんになんとかしたいです。

作成:2013年4月21日, © 2013 raktajino,All rights reserved. raktajino@mac.com